講演記録「働くことはすばらしい」

講演記録 「働くことは すばらしい」

私がご指導を賜わるべき先生方に、私がお話しをするのはおこがましいのですが、ある方から話しというのは聞き上手な聞き方によって、その価値は決まると教わりましたので、つまらない話しも先生方によって価値を高めていただけることを期待しています。

私は、昭和19年2月1日、合志町に生まれました。合志中学校を卒業後、鎮西高校入学、在学中、名古屋に本社のあるキクチメガネの森文男社長に、メガネの仕事のすばらしさを教わり、メガネの仕事を生涯の仕事にしようと決意しました。高校卒業と同時に大宝堂眼鏡舗に勤めさせていただきました。12年間勤務させていただいた間、5年間本店の店長をやり、30才の誕生日に退社し、メガネのヨネザワを創業しました。大宝堂時代、皆さんによくしていただき、よい思いでばかりですが、退社する際は、うしろ髪をひかれる思いでした。

創業精神は、すばらしい職場づくりにいたしました。生涯の仕事に十分に価値ある仕事であることを自信をもって言えるようにするために、組織を拡大することにいたしました。熊本は九州の中心にあるこの特長を生かして、九州に200店舗をつくることを目標にしました。現在、153店舗、メガネ・コンタクトレンズ・補聴器・携帯電話などを取り扱っています。

家族は6人家族です。90才の母と私達夫婦、子供が3人です。家内は当社の専務、子供達は3人とも眼科医をしています。

私は、小学校1年の時、父を病気で亡くし、貧しい子供時代が脳裏に焼きついていますので、質素倹約することが心構えの習慣になっています。又、働くことが負担になることはありません。私にとって働くことは、ある時はスポーツ感覚であり、ある時は遊びの一部でもあります。仕事を働きによって楽しむことにしています。働くことはすばらしい、これは我家の家風でもあります。会社でも、これが社風になればよいと考えています。働くことをすばらしいと感じるためには、働くことに目標設定をすることが大切です。我社で毎年、大学卒業生を50名採用していますが、その人達が目標を見失っているような気がいたします。目標がなければ働き甲斐を意識することができないと思います。

私は若い人達に夢を語ってもらい、その中に目標を設定する習慣を身につけていただきたいと思っています。今日の目標、明日の目標、将来の目標を明確にし、数字に表すことが大切だと考えます。個人・会社・あらゆる事業に目標設定が必要であるのに目標が不明確なために働きがいを見つけることができず、悩んでいる人が多いと思います。

例えば、スポーツは目標が明確だから、苦しくてもやりがいがある。陸上競技にしても、ゴールがあるから一生懸命走れるし、跳べると思います。フルマラソンなども、ゴールがあるから苦しくても必死で走れる。そしてその苦しさが走りがいになる。目標のない人は苦しさは、つらい、イヤなこととして残るし、目標のある人は苦しいことがやりがいのある楽しいこととして残る。同じ行動がその人の心構えによって、結果は大きく差になってあらわれる。

我社では朝礼にその日の目標を発表することにしています。今日の目標を明確にして、働きがいをつくろうとしているのです。

我家では、正月の元旦を夢を語る日にしています。1月1日には家族みんなで夢を語ることにしています。夢を語り合うことによって、それぞれの目標が明確になってきます。ゴールを決めてスタートする。これを基本にしています。

我社の社員の平均年令は30才です。結婚適齢期です。結婚しようと言う目標を立てると、いろいろな障壁があったとしても、それを解決することがゴールに一歩近づくことが自覚できれば楽しくもなる。結婚資金を貯めるために辛抱することが喜びになる。結婚という目標がなければ辛抱することはイヤなこととして残る。

学校の場合も同じではないでしょうか。入学する目標があり、そのために勉強する。入学したら、試験もある。100点満点を目指して頑張るし、又学校には明確な時間割があり、時間管理が明確である。仕事を会社でする場合も時間管理をして下さいと、社員の皆さんに申し上げています。学校で習ったことを仕事に生かして下さいと。学校のシステムを職場に生かして下さい。学校では試験をして点数をつけ評価する。体育では、走ったり跳んだりして、その人に体力を自覚させる。このような学校での体験を仕事に生かして下さいと。資本主義社会は資本の論理の競争社会ですから、学校での競争を生かせる人は、仕事の成果を期待できます。この様に、人を、会社を、事業を競争させることによって、お互いが努力し、成長していく。

私は生まれてすぐ小児麻痺にかかり、足に障害がありますので体力的に健常者と比べれば劣ることを自覚しています。若い時、惨めな気持ちでしたけれど、今になって思えば、そのことが私の精神構造をつくり上げ、負けぎらいの自分自身になっています。私が、もし両親が健在で、裕福な生活の子供時代を過ごしていたなら、質素倹約の精神は育まれなかったでしょう。現在の我社の成長要因の最大のものは、身体に障害があることと貧しい子供時代であったことの2つの要因が私の強い精神をつくり今日のしあわせにつながっていると信じています。

今は物質的に豊かで、目標がなくても生きていける。親のすねかじりの若者が目立ちます。そして親への感謝すら忘れている。これは私達大人の責任ではないでしょうか。私達が先輩や先生方から教えていただいた精神を子供達や後輩達に伝えていない、私達の責任だと思います。

私は小売り業をやっている商人です。商人には商人道があり、日本の小売り業の歴史があります。

しかし現在の小売り業は、業態が変わり、大型店にパート社員、コンビニ店にアルバイト、又自動販売機で物を売る。こんな具合で商人の心がなくなりつつあります。21世紀は心の時代、商人の心をお店にとり戻すことをはじめなければなりません。

又、日本人は一生懸命働いて、戦後の貧しさを現在の豊かさに成長させてきました。一生懸命働いたお陰で現在があると云うのに、自分の子供にはなるべく楽をして、体をつかわずに収入の多い仕事に就かせたい。なるべく努力しなくても安定できる仕事はないかと願っている。この様な親のエゴが子供達を不幸にするのではないでしょうか。学校で折角身についた競争の習慣と現状認識の習慣を仕事会社にも生かすことが必要だと思います。

日本が物的に豊かになり、競争を避けて精神的に楽をする風潮が強まり、結果、精神的貧しさをきたしていると思います。学校を終えて、社会にでると競争に拍車がかかり、企業においては、競争原理についていけない企業は社会から消えてなくなる運命にあります。

学校で身についた勉強の習慣を働くことの習慣にできる人はしあわせだと思います。社会は勉強の習慣が働くことの習慣につながることを期待して、高学歴の人や、戌績の良い人を採用するのでほないでしょうか。競争に打ち勝ってきた実績を評価して社会での競争を期待しているのではないでしょうか。競争のない社会では働く概念すら変わっていくのではないでしょうか。働くことはすばらしいことであり、目標に段階を追って近づいていることを自覚できるシステムをつくれば会社は繁栄します。自分自身に目標があれば、人との競争が自分の心構えとの競争になり、勉強のやりがい、仕事のやりがいにつながると思います。

それから夢を語れない人が増えているのが気になります。学校で勉強する目的の中には、将来の夢を語ることができる知識の習得があると思います。知識がなければ先を予測することは困難です。歴史を勉強することによって将来を予測する。過去10年間を勉強して未来の10年間を予測する。

学校で学んだことを仕事に生かし、豊かな人生を過ごす。現在の混沌とした経済環境の中で、先を見ることは大変難しい状況です。しかしこのような時にも確定しているのは時間です。確実に時を刻み、明日はやってきます。10年後の私の年令、20年後の年令、30年後の年令、それから予測される体力、経済的収入、支出、家族の年令、住居。子供が小学校に入学する時、大学を卒業する時、就職する時期など、予測できることは他にもいくつもあります。何もわからないと思っていた将来を夢見ることによって、目標が設定されてくる。目標が見つかれば努力することが目標に近づくことを自覚できて毎日が楽しくなる。これこそ働くことはすばらしいの概念になると思います。

働くことの方法で、汗して、体力をつかう、智恵をつかう、心をつかう方法があると思います。いくら体力をつかって働きたくても働けない人もいます。我社でも2人病気の後遺症で体の不自由な人がいます。2人共40代で病気で倒れましたが、現在は仕事に復帰しています。体力的にも知恵を働かすことも今のところ無理です。2人共働けないことを理由に辞表をもってきましたが、辞めずに働いてくれとお願いして、在職しています。2人共、会社の仲間に感謝し、会社に感謝し、感謝の心が会社に貢献しているのです。職場に優しい心が芽生えました。2人共、心で働いているのです。働くことがリハビリになり、いずれは体力も回復し、元気になれると信じています。