第四十六話 「冬来たりなば春遠からじ」

第四十六話 「冬来たりなば春遠からじ」

夢ふくらませて創業はしたものの現実は厳しく、慎重につくった事業計画は絵に書いた餅の如く、自らの未熟さを思い知らされ、それでも計画通りにすすまぬことは、他人のせいにして、自分の甘さに気づかず猛烈に走りやがて壁にぶち当たり止る。万策尽きたと落胆している弱気な自分を奮い起たせ、叱咤激励してくれるありがたい言葉、〝冬来たりなば春遠からじ〟貧困な家庭環境に育ち、いつかはきっと人並みな生活ができると信じて、歯をくいしばり過ごす日々、心の支柱にしてきた言葉。子供心に明日に希望を持ち、早く大人になって働きたいと念じていました。苦しい時、辛い時、悲しい時、この言葉を噛みしめ〝いつかはきっと春がくる、朝の来ない夜はない〟と自分を励まし、家庭にも職場にもその言葉を額に入れて掲げ、仕事だけでなく人生を送るうえでの心の支えとしています。特に創業期の十年間は試行錯誤の連続、借金体質の会社に停滞は倒産を意味します。自分で決めたこととは云え、サラリーマンだった頃の心の余裕がなつかしく、何度、〝冬来たりなば春遠からじ〟に救われたことか。再び、チャレンジャーとして果敢に目標に挑戦し、競争競合の世界にとどまることがかろうじてできています。現在70歳、会社も創業41年目にして、いくらかの余裕と安堵感があり、気のゆるみがでて、この変化の激しい時代を生き抜く活力・体力・能力が維持できるのか。今はよくても中期長期計画を立案する資格が私にあるのか不安がよぎる。運良く今日まで会社を維持してきたものの年齢には逆らえない。健康管理に人一倍注意し、同年代の人よりは元気であり、体力気力共に進化していると思いたいけれども、衰えている体力を見せつけてられて愕然とする。現実は厳しい。冬来たりなば春遠からじ、年齢だけには当てはまらない。時は皆、平等に過ぎて行く、春夏秋冬は繰り返しやってくるが、時は返ってこない「時間を最も有効に利用した者に最も立派な仕事ができる。」柔道家 嘉納治五郎の名言である。人には時間が永遠に与えられていないから若い人達に夢を託し、冬来たりなば春遠からじ。若い時の苦労は必ず実になり花開く。