第五十四話 「生きることと時間の大切さ」

第五十四話 生きることと時間の大切さ

水前寺高等学園の初代園長で志半ばで亡くなった稲葉恵治さんをしのぶ追悼文集

「年上の方は偉い」との心構えで若いころから過ごしてきましたし、会社経営をやっています。
 生きること。命の大切さはかけがえのないもので、その尊さに区別はありません。ましてや職業、地位、名声…。生きることの価値からすれば、微々たることです。いくら高い能力があろうとも、生きていてはじめて能力を生かすことができます。
 水前寺高等学園を興し、志半ばで亡くなった親友の稲葉恵治君は「再びの命」を書き残しました。亡くなる一年前、平成19(2007)年のことで命の重さ、時間の大切が伝わってきます。
 稲葉君は肝硬変で死の宣告を受けたあと、息子さんの肝臓を生体肝移植することで命を再びいただき、一刻一刻を一生懸命に生きていました。
 ご家族の深い愛情があったにせよ、本人の心の葛藤はいかばかりか。手術前、揺れる心情を吐露する本人を前に返答に窮しました。命をもらった父と母。再び命を息子から。死線をさまよって時間の大切さに気付き、時間は命、命とは時間のこと、「再びの命」を大切に生きたいと記していました。
 稲葉君から学びました。命をかけて生きることの意味と時間を大切にし、相手の時間をも無駄にしないようにしなければならないと。
 生かされていることを自覚し感謝すること。一人では何もできない、先輩方から育ててもらい教えていただき、先輩方の経験から多くを学んできました。そして今、多くの先輩方の犠牲の上に成り立つ平和な社会に生かされています。
 先輩方に感謝する心構えを常に持つこと。家庭では家風に、会社では社風にしたいと願っています。若くして組織の長になったら、部下の年配者に対しての言葉遣いには特に注意し、故きを温ね新しきを知る。先輩方の経験に学び、新しい時代を創造し、組織の活性化を図りたいと思います。
 組織は戦略や計画遂行のための一時的なもので、上司や部下の関係は戦略や計画によっていつでも変わります。その度に言葉遣いや態度が変わると見苦しいのです。若い人が先輩方を大切にする姿は実にすがすがしいものです。
 先輩からは知識経験を、後輩からは感覚を学べと先輩から教わってきました。